当科の紹介

国内留学

植木 将弘 先生北海道大学 2007年(平成19年)卒業

私は生まれも育ちも北海道で、2007年に北海道大学医学部を卒業しました。もともと学生時代から漠然と内科系、成人よりも小児という考えを持っており、小児医療・小児科医育成に力を入れている道内の各病院の中で、北見赤十字病院で初期研修を行いました。初期研修中も非常に良い指導を受けることができ、様々な経験をしたうえで、やはり小児科医になろうという考えは変わらず、卒業大学であること、様々な関連病院での研修、小児科のサブスペシャリティーが全分野揃っていること、臨床・研究・教育とそれぞれバランスが良いことなどから、北海道大学小児科学教室にお世話になることに決めました。実際、北見・室蘭・帯広という北海道の地方中核都市で非常に密度の濃い、小児科医として良い研修を受けることができました。

4年間の小児科医としての研修の後、2013年に大学院へ入学と共にサブスペシャリティー研修を開始しました。元々、小児喘息の既往があったことも関連して、免疫・アレルギーを専門分野に選びました。大学では免疫不全症、自己炎症性疾患、自己免疫疾患などの診療・研究を通じて、患者さんを診療すると同時に、患者さんから様々な事を学びました。そのような中で、1人の患者さんとの出会いがこの後述べる国内留学につながる、ひいては私の小児科医人生に大きな影響を与えることになりました。

その患者さんは出生直後から原因不明の発熱、皮膚炎を発症し、炎症の持続と共に呼吸障害を反復しました。これまでに報告されているいずれの疾患にも合致せず、免疫不全症・感染症の鑑別から開始し、同時に遺伝子検査も進め、最終的に自己炎症性疾患の診断をしました。その診断の際に、私の国内留学先である京都大学大学院医学研究科 細胞機能制御学分野の岩井一宏教授とお会いする機会をえることができ、様々な研究面での助言を頂き、このつながりがその後の留学につながることになります。この患者さんは、各種治療により病勢をコントロールすることができました。ちょうどその頃に、超有名医学雑誌の1つであるCell誌に我々を非常に悩ませたこの自己炎症性疾患についての研究報告が出たのです。非常に明快に病態が解明されており、残念という気持ちとともに我々が取り組んできたことが間違いではなかったという気持ちになりました。

このような経験を通じて、免疫不全症・自己炎症性疾患・自己免疫疾患のすべてに共通する、免疫の活性化・炎症制御という分野に興味を持ち、細胞機能制御学分野への国内留学を希望しました。

私が2018年10月から2020年12月まで国内留学した細胞機能制御学分野はNF-κBシグナルの活性化に関するユビキチン修飾:直鎖状ユビキチン鎖を世界で初めて報告した岩井一宏教授が主宰されている教室です。NF-κBシグナルは免疫の活性化、炎症惹起、細胞死など非常に多彩な細胞内シグナルに関連することから、免疫と感染症、悪性腫瘍や腫瘍免疫など上記のシグナルが関与する分野において小児科、血液内科、神経内科、膠原病内科、腫瘍外科などの臨床講座と連携をしながら様々な研究を進めていました。私はNF-κBシグナルの活性化機構をメインテーマに研究を行いました。ここで私が学んだ最も重要な事は「考えるとはどういうことか。プレゼンテーションの本質はなにか。ひいては、その研究や患者にどこまできちんと向き合うか」というごく当たり前ですが非常に難しいことでした。

研究をするために必要なものは多々あります。実際私もPCRやWestern blotなど基本的な解析技法の経験はありましたので、場所や機械が変わっても比較的早く慣れることができました。一方、研究を行う上での基礎が十分確立されていなかったことの方が問題でした。研究を行う際には、何がこれまで解明されているか・何がわかっていないかを研究前に徹底的に洗い出すということが重要になります。また、この作業の中で、自分は何がわかっていないのか、何を勉強しなければならないのかということも同時に洗い出さなければなりません。次に、勉強を進めて知識を得た後に、研究計画を立て、実験を行い、プレゼンテーション・discussionをしながら、研究を進めていくことになります。プレゼンテーションも誰を相手に、どのように話すのかを意識するのはもちろん重要ですが、研究やカンファレンスでのプレゼンテーションの際には自分がわかっていること、わからないことも明確にすることで、指導者から有効な助言を得ることができます。上記の考え方は研究だけではなく、臨床でも有用であり、その後の私の診療・研究に大きな影響を与えています。

1年3カ月という短い期間で、満足なデータを得ることができませんでしたが、岩井教授をはじめ研究者として活躍されている先生方と時間を過ごし、自分に不足している点・改善点に向き合うことができたというのが、留学での私の財産になっています。

正直なところ、医者8年目くらい・大学院で研究を始めて2年くらいまでは、大学院修了後に研究の仕事をすることも、留学することも全く考えていませんでした。私が経験したように、ちょっとしたきっかけや出会いが研究や留学につながるという事もあるかと思います。

また、今回全く違う環境で仕事をしたことで、自分が小児科医という仕事が好きということを再確認でき、北大小児科に戻ってからの仕事が更に楽しくなっているというのは、私にとって非常に大きいことです。さらに、知り合いのほとんどいない場所に家族と共に異動したことで、家族と向き合う・過ごす時間も増えました。京都は歴史的建造物が多く、またライトアップ公開などその地域に住んでいないとなかなかできない体験ができたのも良かったかと思います。(写真は平等院鳳凰堂のライトアップ公開の際の写真です。)このような経験も、その後の私の仕事と家庭のバランスなどに良い影響を与えたと思います。

まだまだキャリアの浅い私ですが、今感じていることは、医学はまだまだ解明されていないことが多く、日常診療にも様々な問題点・疑問点が存在しているのではないかという事です。以前までは、個人差もあるしよくわからない、良くなったから・元気になったからいいかな、自分が知らないだけで報告はあるのだろうな、そのうち調べようということも多かったですが、留学を通じて仕事や自分の役割ときちんと向き合う・考えるということをroutine workとして行うようになり、結果として患者さんに還元できていることもあるのではないかと思っています。

仮に25歳から65歳まで医師・小児科医をすると考えると、40年あるかと思います。その中で自分は何ができるのか、何がしたいかという事を考えたときに、数年間留学して今と全く異なる環境で仕事をするという選択肢も悪くないのではないでしょうか。それが新たな刺激や経験となり、小児科医としての仕事に戻ってきたときに活かせる・モチベーションが上がるという事もあると思います。また、国内留学は金銭面・言語面ではハードルが低く、行く場所によっては研究面についても海外留学と同等の経験ができるメリットもあると思います。

杉山 未奈子 先生北海道大学 2005年(平成17年)卒業

北大の近隣で生まれ育ち北大を卒業したので、あまり深く考えずに入局したというのが正直なところです。狭い世界の中でものを考えがちですので、今回の留学で広い視野と柔軟な考え方を持つ大切さを知ることができました。

2019年10月から2020年3月の間、がんゲノム医療の黎明期、国立がんセンター中央病院小児腫瘍科にお世話になりました。小児がんにおけるPrecision Medicineの考え方を持ち帰ることができたのではないかと思っています。更に良かったことは、北大病院の良さを知ったことでした。小児科の中でもそれぞれの分野の専門家が協力して診療にあたっていますし、病院全体にも子どもたちを大切に診てくれる雰囲気があると感じます。

施設が変わると臨床の細かなことにも大きな違いがあります。国内留学はより良い医療を患者さんに還元し、自分の施設の良さを知る良い機会になると思います。