研究
髙橋 和樹 先生札幌医科大学 2018年(平成30年)卒業
私は他大学出身ですが、初期研修中に1か月間、北海道大学小児科で臨床研修をする機会がありました。北大小児科には多くの専門分野があり、それぞれの垣根が低く、分野を超えて相談・協力がしやすく多様な疾患を経験することができます。また、先生方もとてもやさしく、ここで働きたいと強く感じたため入局を決めました。
現在は免疫グループに所属し、主に免疫疾患の研究をしています。
日本でまだ報告のない希少な病気をもつ患者さんを診療する中で、「どうしてこうなるんだろう?」という疑問が生まれました。この病気は世界でも10例ほどしか報告がなく、原因がわかっていません。そこで患者さんの細胞からiPS細胞をつくり、T細胞やNK細胞などの免疫細胞に育てていく過程で、アポトーシス(細胞が自ら死ぬ仕組み)やサイトカイン(炎症を起こす物質)などの変化を調べています。
研究の面白いところとして、臨床現場で一般的に行われている検査では解明できない疑問を自分自身の手で解明できることがあります。その小さな発見が、やがて病気のメカニズム解明や、新しい治療法のアイデアにつながっていきます。世界でまだ誰も知らないことを、自分の手で明らかにできる——そんなワクワク感があります。
ほかにも、北海道全域の病院から依頼を受けて、先天性免疫異常症の診断に役立つ検査(活性酸素の産生能検査)や、原因不明の発熱・炎症がある患者さんの血液中のサイトカイン測定も行っています。免疫グループと聞くと先天性免疫異常症など希少疾患を思い浮かべるかもしれませんが、リウマチ性疾患、アレルギー、悪性腫瘍などはもちろん、それ以外にもほとんどすべての病態に関連します。そのため、さまざまな小児疾患や小児科以外の診療科の症例にも応用され、検査結果が診断や治療方針の決定に直結することもあります。自分の研究や検査が、すぐに患者さんの役に立つ場面に出会えるのも大きな魅力です。
正直なところ、学生時代や初期研修医の頃は、自分が研究をするとは思っていませんでした。免疫学などの基礎医学は難しく感じ、「臨床」と「研究」は全く別の道だと思っていたからです。目の前の患者さんを助けるのが「臨床」で、それが自分の進みたい道だと思っていました。
ただ、実際に臨床の現場で困ったことや既存の検査ではわからない疑問によく遭遇します。「これを解明できれば、目の前の患者さんの役に立つんだ!」と研究が臨床診療につながることを実感しました。研究を通して、「なぜ?」を追いかける探究心や新しい発想の柔軟さにもつながり、これらは臨床力にも直結します。臨床・研究の二元論ではなく、臨床の延長線上に研究はあり、北大小児科でも、臨床と研究の両面において第一線で活躍する先生がたくさんいます。少しでも「研究ってどんな感じなんだろう?」と興味を持った方は、ぜひ一度見学に来てみてください。臨床だけでは見られない新しい世界と、発見の喜びが待っています。
遠藤 愛 先生北海道大学 2016年(平成28年)卒業
私は函館出身で、中学生のときに北海道大学の自然豊かな広いキャンパスをみて憧れを抱き、北海道大学への進学を決めました。もともと小児科医を志しており、学生時代から「ジェネラリストでありスペシャリストを目指す」という北大小児科の理念に惹かれ、初期研修を終えた後、そのまま北大小児科に入局しました。その後は地方病院でcommon diseaseを中心に幅広い症例を経験し、2024年10月からは内分泌グループの大学院生として北海道大学病院に勤務し、臨床と研究の両方に携わっています。
まだ大学院1年目であり研究は始めたばかりですが、先天性下垂体機能低下症の病態解明に取り組みたいと考えています。先天性下垂体機能低下症は生涯にわたってホルモン補充療法を要する疾患です。近年、さまざまな疾患で遺伝子異常が同定されてきていますが、先天性下垂体機能低下症の原因遺伝子の同定率が依然として低く、分子レベルでの病態解明がなされているのはごく一部に限られています。この背景には動物モデルとヒトで表現型が異なることもあり、従来の実験系では限界があることが挙げられます。そこで私たちは近年注目されているヒトiPS細胞から視床下部下垂体オルガノイドを作製する技術を習得し、発生過程をin vitroで再現・解析することで病態解明につなげていきたいと考えています。将来的にはこうした研究が新規治療の手がかりに繋がることを目指しています。
大学院に入学して1年が経過しようとしておりますが、これまでの臨床中心の生活とは異なり、新たな視点で医学を考える日々を送っています。臨床医として患者さんの笑顔を身近に感じられる時間が好きでしたが、学びを深める中で基礎研究には未来の医療に広く貢献し、より多くの患者さんに還元できるという大きな魅力があると再認識しております。
北大小児科には臨床と基礎研究の両面に精通した指導医が多数在籍しており、臨床で専門性を磨きつつ研究者としての第一歩を踏み出すうえでとても良い環境が整っています。また他学部との共同研究が可能である点も、総合大学である北大の強みであるとも思います。長い医師人生の中で研究に携わることは、論理的思考を鍛えるうえでも有意義な経験になると考えています。ぜひ興味をお持ちの先生方は、一緒に新しいことに挑戦してみませんか。
実験室で指導医の森川先生に実験手技を教わっている写真
丸尾 優爾 先生北海道大学 2015年(平成27年)卒業
私は現在医師10年目(小児科8年目、大学院3年生、循環器グループ所属、2児の父)です。今回、この文章を読んでくださる皆様として、学生、研修医、小児科専攻医の方々を想定して記載させていただきます。
私は、学生・研修医の時に、お産を見て感動し、お産に関わる仕事がしたいと思ったのがきっかけとなり、最終的に赤ちゃん側の診療に携わりたいと思い、小児科に進むことを決めました。研修医の際に具体的に自分が何をしたいのかを決めることができず、小児科であればサブスペシャリティを決めるまでに時間的な猶予があったことも決め手の一つでした。北大小児科には多くの診療グループがあり、自分が将来やりたいことが決まった時に、その希望が叶いやすいと感じたため、北大小児科を選びました。その後は、小児科医として多くの患者様と出会い、また尊敬する上司との出会いなどを通じて、小児循環器の道に進んでいます。
海外学会(ポルトガル)
海外学会(アイルランド)
with 循環器グループのメンバー
北海道大学小児科循環器グループでは、北海道大学大学院薬学研究院の薬剤分子設計学研究室と10年以上に渡り、心筋ミトコンドリアに対する薬物送達について共同研究を重ね、ミトコンドリア機能を活性化した心臓由来細胞を開発し、その有効性について動物モデルを用いて実証してきました(① Abe J. et al., J Control Release. 2018、② Sasaki D. et al. Sci Rep. 2022、③ Shiraishi M. et al., J Control Release. 2024)。私たちは、臨床応用を見据えて、大量調達が可能で汎用性と安全性が高い細胞として間葉系幹細胞に着目しました。私は、間葉系幹細胞のミトコンドリア機能を活性化し、その有効性について動物モデルを用いて実証するということを主たる研究テーマとして、薬剤分子設計学研究室に学内留学させていただき、基礎研究を行っています。私たちはその先に、間葉系幹細胞のミトコンドリア機能を活性化することで、様々な疾患の治療として臨床応用することを目指しています。その他にも、ミトコンドリア創薬研究に関わる様々な基礎研究プロジェクトに参加させていただいております。
私は、臨床と基礎の両面に興味がありました。現在、臨床を経験しながら基礎研究プロジェクトにもその一員として参加させていただくことができ、このような機会を与えてくれた上司には非常に感謝しています。さらに、今後は海外留学も、可能であれば挑戦してみたく思っております。大学院に進むことで、こういった思いや目標を実現することにつながるのではないかと思います。
気がつけば医師になって10年が経ちました。しかし、これから先10年後に、自分がどのような道に進んでいるのかは、自分でも全く想像がつきません。研究は、これから先の自身の医師人生を、どのように過ごしていきたいかを考えるきっかけを与えてくれるものだと感じています。研究が向いていないと感じれば、やめれば良いですし、研究が少しでも楽しいと感じるのであれば、研究をライフワークとしながら臨床医としても成長できるような道に進めば良いのではないかと思います(中には臨床をやめてしまう先生もいらっしゃるかと思います)。長い医師人生の中で、臨床だけでなく、研究も一時的であれ経験することで、その先に自分がやりたいことを見つけるきっかけになるのではないかと思います。
人生は挑戦の連続であると思います。大学院での生活は、臨床、研究、子育てなど多くのイベントが重なる時期でもあり、忙しくはありますが、同時に非常に多くの刺激があります。海外留学もインフレと円安の影響で、かかる費用は凄まじい金額になっています。家庭、金銭事情、海外生活におけるリスクなどを考えると、行かない理由はいくらでもありますが、しかし、そのような中でも挑戦している人がいる、というのも事実です。大学で研究を行うということは、研究を通してこの先の自身の医師人生を考えるという意味でも、みなさんにとって非常に価値のあるものになるのではないかと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました。将来の道を決める上で、少しでも皆様のお役に立つことができれば幸いです。
金子 直哉 先生北海道大学 2014年(平成26年)卒業
もともと北大出身で、医学科5年生の頃から小児科志望でした。出身大学ということもあり、初期研修修了後に北大小児科に入局させていただき、道内の関連病院小児科で5年間勤務しました。小児科の診療は大変なことも多いですが、毎日子供や親御さんの笑顔がみられ、とてもやりがいがあります。その中で、重症の1型糖尿病の患者さんを担当し、当時の内分泌班のBossに御指導いただいたことがきっかけで小児内分泌に惹かれ、内分泌班の一員となりました。北大小児科は、common diseaseはもちろんのこと、稀少疾患・難治性疾患を経験する機会も多く、多くの仲間と一緒に、日々新しいことを学ぶことができると思います。
内分泌グループの仲間たち。中村明枝先生がお持ちの写真は竹崎俊一郎先生(免疫グループ、現KKR医療センター)の北日本小児科学会野球大会での御雄姿です。
小児がん経験者(Childhood Cancer Survivors:CCS)の内分泌合併症についての臨床研究をしています。
北大病院は小児がん拠点病院の一つで、多くの小児がん患者さんの診療をしています。CCSは小児がんの治療が終わった後も晩期合併症(特に内分泌合併症が多い)に悩まされることが多く、血液・腫瘍班の先生方と協力して合併症の検索、治療、フォローを行っています。小児がんの治療(放射線照射・化学療法・移植など)と内分泌合併症との関連、リスク因子、発症時期などを明らかにすることで、早期発見や適切な治療、診断基準の見直しの一助になり、CCSの健康管理に役立てるのが目標です。
多職種カンファレンスの様子
臨床の現場で日々患者さんと接していると、ふと頭の中に疑問が湧くことがあるかと思います。例えば、「なぜこの病気にこの治療が推奨されているのだろう?もっと良い治療法はないのだろうか?」「なぜこの病気の診断にこの検査が必要なのだろう?もっと簡単な検査はないのだろうか?」
こういった小さな疑問の積み重ねがクリニカルクエスチョンとして研究のきっかけとなり、新たな知見の礎になっています。臨床が大好きな先生も、研究の側面をみることで、世界が広がると思います。是非、北大小児科で、一緒にやりませんか?!
小児科外来にあるアームスパンを測定するための壁紙です。通常は身長と概ね同じ長さですが、骨系統疾患や放射線治療で脊椎に照射を受けた方は、アームスパンと身長が異なる場合があるので時々外来で測定しています!
後藤 健 先生北海道大学 2014年(平成26年)卒業
中学生の頃から小児科医に憧れており、北海道で働くなら最も規模の大きい医局で幅広く学びたいと考え、医学部・医局ともに北大を志望して進んできました。
入局後の4年間は、道内の関連病院で一般小児科診療を幅広く経験しました。サブスペシャリティをどの分野にするか悩む中で、熱性痙攣やてんかん、神経筋疾患の患者さんを担当する機会が多くありました。年齢層が幅広く、専門的な知識と一般小児科の知識を行き来しながら全身を診療する神経分野の奥深さに惹かれました。
また、神経疾患は慢性の経過をたどる病気が多く、患者さん本人だけでなくご家族を長く支えていく必要があります。その中で、医師には明るく朗らかで、柔軟な姿勢が求められるのだと思います。そうした雰囲気が自然と根付いている神経班に惹かれ、この分野でより専門的な知識と技術を高めたいと考え、大学院へ進学しました。
当班チーフの江川先生に指導をいただきながら、Angelman症候群という発達遅滞と難治性てんかんを発症する遺伝子疾患のモデルマウスを使った研究をしています。
難治性てんかんに対して、ケトン食療法(低糖質・高脂質の食事)という治療法があるのですが、Angelman症候群のモデルマウスでそれを試してみると、なぜかケトン食を摂取した雌マウスに限って異常な肥満傾向を示すことが分かりました。
実際、女性のAngelman症候群の患者さんでも肥満傾向があることは知られていましたが、それが何故なのかは分かっていないため、マウスでこの病態を解明することで、将来的に患者さんの予防や治療に還元されることを期待して研究をしています。
当初は「神経」をキーワードに出発した研究でしたが、解明したいテーマが「肥満」となってしまったため、肥満や代謝などの研究手法に詳しい他の研究室の先生方にも協力を頂きながら研究を進めています。
分からないことだらけで苦労はありますが、神経分野だけでは経験できなかったであろう考え方や研究手法を学べています。最近では思い通りにいかないことも少し楽しめるようになったと思います。
基礎研究の立場からお伝えします。
入局後の最初の数年で、小児科臨床の経験値は大きく伸びると思います。しかし、その先を見据えると、一般小児科の知識だけでは届かない専門的な領域が広がっています。
臨床で得る多くの知識が「マクロ」だとすれば、基礎研究で学ぶのは「ミクロ」の世界です。組織や細胞レベル、遺伝子やタンパクといった分子レベルの理解が、今や臨床の現場でも求められる時代になっています。
研究を通して自分の専門の軸を築くことで、そこを起点により広い分野にも興味を持ち、理解を深められるようになります。
大学院で研究を始めてから感じた一番の変化は、まさにその「視野の広がり」でした。
臨床に加えて研究にも関わることで、日々の診療の見え方が少しずつ変わっていくように感じます。もし研究に興味を持っている方がいれば、そんな変化を楽しむ気持ちで、一度研究の世界に身を置いてみてはいかがでしょうか。
神経科学では世界最大規模のSociety for Neuroscience@サンディエゴで研究発表してきました。
指導医の江川先生と
マウスの研究の一部(痙攣誘発実験)
佐藤 逸美 先生札幌医科大学 2013年(平成25年)卒業
新生児科医になりたくて小児科を志したので、研修病院のほとんどにNICUがある北大小児科を選びました。実際、小児科1年目を除き大学院生として大学に戻るまでの5年間は全てNICUがある病院に勤務し一般小児とNICU業務両方に携わっていました。
その後は縁あって大学病院の小児循環器班に所属し、優しくて厳しい上司や先輩方に小児循環器と基礎研究のご指導を賜っています。
北海道大学薬学部薬剤分子設計学教室と当科循環器班の共同研究として、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の疾患モデル動物を用いてミトコンドリア機能への介入によるDMDの進行抑制について研究しています。また、その研究過程で正常骨格筋ミトコンドリアへの薬物送達や機能活性化についても研究を行い、そちらについても廃用症候群やアンチエイジング等への応用を検討しています。
学生の時、基礎研究は難しすぎて私には無理だと早々に選択肢から消えました。
医師になってからも、臨床一辺倒で基礎論文も英語も統計も大の苦手で一生避け続けるつもりでした。
そんな私でも現在、日々実験を行い、英語論文を漁り、苦手なりに一生懸命研究データを統計解析しています。自分の人生で、日本の最高学府に研究のために単身でお邪魔したり、基礎研究で国際学会に行ったりする日が来るなんて全く想定していませんでした。でも何だか楽しいほうに転がり続けています。このようなきっかけと機会を与えてくれた上司には感謝しています。
北大小児科には臨床研究や基礎研究、社会医学含め様々な分野の研究者でもあり臨床医としてもスペシャリストである先生が多く在籍し、他大学や他学部、他科との共同研究やコラボレーションも多くあります。少しでも研究に興味があれば、まず一歩足を踏み入れてみて下さい。臨床だけでは見ることが出来ない世界が一気に広がると思います。
Euromit 2023 (2023/6/11-15 Bologna, Italy)にて
サン・ペトローニオ聖堂
